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第13回 日中韓ユースフォーラム 開催報告書

( 第13回日中韓ユースフォーラム 参加者・関係者一同 )

はじめに

2025年8月、京都・立命館大学を舞台に、第13回日中韓ユースフォーラムが開催されました。本フォーラムは、日中韓3か国の若者が国際社会の共通課題について率直に議論し、相互理解を深めることを通じて、次世代の国際協力を担う人材を育成することを目的としています。

本報告書では、開会式から各セッション、ディベート、そして文化交流に至るまで、4日間にわたるプログラムの詳細と、そこで得られた学びや成果を記録します。活発な議論と心温まる交流の様子から、東アジアの未来を担う我々若者の可能性を感じていただければ幸いです。

( 開会の辞を述べる明石康氏 [日本国際連合協会副会長、元国連事務総長特別代表] )

1. 開会式:未来への期待を胸に、フォーラム開幕

2025年8月、第13回日中韓ユースフォーラムが京都・立命館大学において開催されました。本フォーラムは、日中韓3か国の若者が国際社会の課題について率直に議論し、相互理解を深めることを目的として毎年開催されています。このような場における三国間交流の積み重ねは、次世代の国際協力を担う人材育成を推進するための貴重な機会となっています。

開会式に先立ち、去る8月14日に102歳で逝去された千玄室大宗匠に哀悼の意を表し、参加者一同より黙祷が捧げられました。千氏は、外務省参与、日本国際連合協会会長、ユネスコ親善大使など数々の要職を歴任され、長きにわたり平和の実現と次世代育成に尽力し、本フォーラムの理念を支えてこられました。

その後、各国代表による挨拶が行われました。中国国際連合協会の胡文丽副会長兼事務次長は、学生間の率直な議論から生まれる相互理解と協力の重要性を述べ、本フォーラムに大きな期待を寄せられました。続いて、韓国国際連合協会の郭英薰会長は、これからの時代を担う若者同士の交流こそが将来の平和を築く礎になると強調されました。最後に、日本国際連合協会の明石康副会長が、国際連合での豊富な経験を踏まえ、日中韓3か国が対話を重ね、未来に向けて協力関係を再構築していく必要性を説かれました。

開会式終了後には、司会の杉森加輝氏より、参加者に対して「専門知識を議論に活かすこと」と「フォーラム内外でのコミュニケーションを大切にすること」という2つのメッセージが伝えられました。各国代表からの心のこもった挨拶は、フォーラム全体を通じて積極的かつ建設的な議論を促す、力強い追い風となりました。

( 中間理乃 )

( Session 1 における討議の様子 )

2. セッション報告

Session 1:北朝鮮の非核化への道筋を探る

本セッションでは、「北朝鮮の核開発問題を今後どのように解決していくか」をテーマに、 日本、中国、韓国の三カ国からそれぞれ4名の代表が集まり、問題解決に向けた高度な議論が行われました。

議論にあたって、まず日本団のモデレーターが議場を仕切り、北朝鮮が核兵器を追求する主な動機に関する三カ国の見解を共有しました。その際、日本団と韓国団は、北朝鮮の体制維持が核開発の主な理由であると指摘しました。特に韓国団は、北朝鮮の核開発は自国にとって直接的な脅威であり、三カ国協力が不可欠であることを強調しました。日本団も協力の重要性を示しつつ、米国依存の現状や北朝鮮が他国に経済的不安定を印象付けようとしている可能性を指摘しました。一方、中国団は核兵器を国家の威信や正当性の象徴と捉え、米国からの防衛や交渉力確保などの副次的な動機に触れつつ、休戦協定や在韓米軍の存在を背景として挙げました。

続いて、核保有が北朝鮮の外交に与える影響について議論が進められました。日本団は北朝鮮の核保有が孤立化を招くと指摘し、韓国団は政治的免責を与えている点を強調しました。これに対し、中国団は六者協議を有効な対話の枠組みとして評価し、過去の協議破綻は米国による合意不履行が原因であると述べました。日本団と韓国団は、核保有による地域の不安定化を強調し、三カ国間の立場の違いが鮮明となりました。ただし、中国は「先制的に核を使用しない」と明言し、平和的解決の立場を改めて示しました。

Session 1での議論を通じて、北朝鮮の核開発の動機は、米国からの脅威認識やリビア・イラクの事例による体制崩壊の恐れが主要因であり、国内の結束強化や主権誇示も背景にあることが確認されました。また、北朝鮮は主要国から「核保有国」として承認されたいと考えていますが、各国はアジアでの核拡散を懸念して承認を拒否しています。

日中韓それぞれの非核化への立場についても議論され、日本は非核化達成に悲観的である一方、中国は「非核化と平和体制構築の二本柱」を提示し、韓国は協議から排除されることを避けたいと主張しました。抑止戦略に関する議論では、米韓合同演習などが逆に不安を高める可能性や、中国が強いシグナルを出すことで北朝鮮の反発を招く恐れが指摘されました。

地域安定と国際秩序に関しては、日本・韓国は安全保障上の不安や軍拡競争の可能性、NPT体制への挑戦を問題視しました。これに対し、中国は脅威を過大評価せず、対話の継続を重視しました。過去の非核化努力については、制裁は回避可能で効果が限定的であり、過度な制裁は人道危機や抵抗強化につながること、信頼欠如や包括的解決策の欠如が停滞の主要因であるとされました。

議論の中では、新たな三国協力戦略として、人道支援、経済・軍事戦略、相互信頼の再構築が提案されました。特にサイバー空間における北朝鮮の資金調達問題が重視され、2022年には北朝鮮が17億ドル相当の暗号資産を盗んだ事例が示されました。これを受けて、日中韓三国によるサイバー監視拠点の設置、攻撃指標(IOC)の共有、フィッシング対策、国際的非難声明の発信など、具体的な協力策が議論されました。さらに、調査グループの設置や議題の地域的・国際的拡大も提案されました。

最後に、三国サミットの設立が議論され、日韓は設立に賛同し、中国も安全保障分野を中心とした開催に前向きな姿勢を示しました。初年度のテーマはサイバーセキュリティと暗号資産とされ、議題は各国の合意に基づき変更可能であること、開催地は持ち回り制とすることが確認されました。

議論の総括として、日本団は自らの準備がResolution(決議案)の作成に偏っていた一方、中韓両国の代表が背景研究を徹底していたことを痛感しました。この経験から、 表面的な理解にとどまらず、背景や文脈を包括的に把握することが、今後の議論を主導するうえで不可欠であるとの学びを得ることができました。

( 三縄悠人 )

( 挨拶を述べる山本忠通氏 [ 元国連事務総長特別代表、元在ハンガリー特命全権大使] )

Session 2:強靭な地域貿易ネットワークの構築を目指して

Session 2では「地政学的混迷期における日中韓の貿易強化」というテーマで議論が行われました。米中対立やCOVID-19などを背景に、単なる効率性だけでなく、持続性と安定性を備えた新たな貿易ネットワークの形成が必要であるとの共通認識のもと、会議を進めました。

まず、三カ国は国内の課題や貿易協力への影響についてそれぞれの国の立場から発表を行いました。日本代表は、自国の課題をSWOT分析に基づいて整理し、特定市場への依存や政治摩擦を弱点として挙げました。その上で、「チャイナ・プラスワン」戦略による多角化を進め、ASEANや南アジアとの関係を拡大しつつ、中国・韓国とも建設的に関与していく必要性を強調しました。韓国代表は、THAAD配備後の関係悪化を例に、歴史的対立や報復的な貿易措置が三カ国間の信頼構築を妨げる要因であると指摘しました。また、中国の国家主導型経済が市場アクセスに非対称性を生んでいることにも懸念を示しました。一方、中国代表は、自国の規制体制を「マクロ経済の安定を支える柱」と位置づけ、障害ではなく強みとして説明しました。その上で、ASEAN+3、RCEP、一帯一路といった既存の多国間枠組みを活用し、段階的に協力を進める姿勢を表明しました。

各国の立ち位置をまとめた後、ディスカッションではまず環境基準や規制の不一致がコストを増大させている現状が認識され、三カ国に調和の必要性があることが全体として確認されました。特に観光、学術交流、デジタルサービスなど機密性の低い分野から段階的に協力を進め、AIや半導体といった戦略的、機密性の高い分野に貿易を拡大していくアプローチが支持されました。

また、外的要因についてはCOVID-19や米中戦略対立が共通の脆弱性として挙げられ、効率性だけでなく耐久性を持つ貿易ネットワークを構築すべきとの認識が確認されました。三国間の規制調整やデジタル貿易を促進する基盤としてRCEPはその包摂性と柔軟性から高く評価され、RCEPを基にシステムを構築することで方向性が決まりました。一方、CPTPPを基盤にするという提案も議論中に出て、日本が高い規範水準の維持を重視する立場を示したのに対し、中国は短期的な加盟は困難であるとし、韓国は透明性や労働規範との整合性に懸念を示すなど、意見の相違も見られました。

さらに、リスク評価委員会の設立やデジタル通関制度の導入など具体的な提案が出され、日本は「三国間グリーンエネルギーパートナーシップ」を、韓国は「ブロックチェーンを用いた通関・AIによるサプライチェーン監視」を、中国は「規制調和と制度的信頼構築」を提案しました。

今回のセッションを通じて、三カ国は歴史的対立や経済体制の違いといった課題が残る一方で、協力を進めなければならないという強い共通認識を確認しました。特にRCEPを基盤とした制度的深化、規制の明確化、人と人との交流を通じた信頼構築は、強靭な地域貿易ネットワークを築く上で不可欠であることが明らかになりました。この議論は単なる貿易自由化の枠を超え、東アジアが共存と繁栄を実現するための重要な一歩となることが示されました。

( 山上海 )

( 各国代表団によるプレゼンテーションの様子 [Session 3] )

Session 3:日中韓の未来を担う教育とは

Session 3では中等教育をテーマに、Issue(課題の特定)・Perception(共通認識の形成)・Action(解決策の提案)の3段階に分けて議論が行われました。

まずIssueの段階では、各国代表団から自国の中等教育における仕組み、現状と課題について説明がありました。

中国代表団からは、大学入試である高考をめぐる過度な競争により、朝6時から夜10時まで勉強を続ける生活や、家族や教師からの強い圧力に起因する心理的負担が深刻な問題であることが指摘されました。また、都市と農村の間で教育環境に格差が存在し、公平性の担保が重要な課題であると強調しました。

韓国代表団からは、大学名が社会的・経済的地位に強く結びついている状況や、学業以外の関心を持つことや専門大学への進学が否定的に見られる社会的風潮があると報告されました。さらに、教育資源が首都ソウルに集中していることや巨大な私教育市場の存在、多様な専攻や大学間で差別が生じていることも課題として共有されました。その一方で、政策としてスクールカウンセラーの配置や進路指導の強化、多様な科目選択の導入といった改善の取り組みが進められていることも紹介されました。

日本代表団からは、若者の主要な死因が自殺となっている現状に象徴されるように、教育や部活動における過度なプレッシャーがメンタルヘルスやウェルビーイングに悪影響を与えていることを問題視していることが強調されました。さらに大都市に教育的機会や資源が集中し、地方在住の学生との間に心理的・教育的な格差が存在していることが共有されました。

議論を通して、日中韓3カ国の中等教育における共通点が確認されました。1点目はいずれの国も9年間の義務教育を基盤とする点、2点目は学歴主義的な観念が社会に根強く存在している点です。

続くPerceptionの段階では、3カ国が協働して解決を目指すべき課題について議論しました。その結果、教育資源の地域的偏在、社会的固定観念や家庭内資源配分に起因するジェンダーギャップ、過度な競争と大学進学偏重に伴うメンタルヘルスやウェルビーイングの問題という3点が共通課題として確認されました。

最後のActionの段階では、これらの課題に対する具体的な解決策が提案されました。

ジェンダー平等の推進に関しては、特定の分野を特定の性別に結びつけない教育の実現が重要であるとされました。そのため、男女双方に多様なキャリアパスを提示する取り組みや、SNSを活用した学問以外のキャリアの発信、さらには3カ国間で「教育におけるジェンダー平等会議」を開催する案が出されました。

地域格差の是正については、教育インフラの整備やオンライン授業の活用による教育機会の拡大、地域活性化プログラムの推進が提案されました。

過度な競争による若者への心理的影響を緩和するために、OECD Learning Compass 2030を参照し、3か国共通の「JCK Youth Compass」枠組みを策定することが合意されました。その中でも、個人が社会的な仕組みや競争の支配下で受動的になるのではなく、自分自身で選択をする能力(“Collective Agency”)を育む必要性が強調されました。また、3カ国の生徒が相互に交流し、理解を深めることを目的としたデジタルプラットフォームを整備する案も提案されました。

以上のように、本セッションでは各国の現状と課題を共有したうえで、教育におけるジェンダー平等、教育資源の地域格差、過度な競争とメンタルヘルスの3点を共通課題と認識しました。そして、それらに対応する具体的な解決策として、教育制度や社会意識の改善に向けた多様な方向性が提示されました。本セッションの議論は、中等教育を近年修了した学生として、各国の代表が自身の経験を交えながら中等教育のあるべき姿について深く考察する機会となりました。中等教育は、学生が精神的に成長し、将来を選択する重要な期間です。今後も時代に即した改革が行われ、学生たちが心身ともに健康で、充実した教育を受けられる環境が整えられていくことが強く望まれます。

( 長澤璃奈 )

( 各国代表団によるプレゼンテーションの様子 [Session 4] )

Session 4:文化の力で未来を拓く、若者の役割

Session 4では、「文化を基盤とした日中韓の関係強化における若者の役割」について議論が行われました。

近年、日本のアニメや韓国のK-POP、中国の映画などの文化が国境をこえて大きな影響を与え、東アジアの他国にポジティブな印象を持つ若者が増えています。文化交流の中心であり、未来を担う私たち「若者」が、経済関係の構築や歴史問題の解決に向けて重要な役割を担っていることは明らかです。

本フォーラムでは、このトピックの中心である私たち学生が、それぞれの立場から意見を述べました。日本団は、これらの文化的な好感度を背景に、日中韓の国の歌手を集めた音楽フェスティバルの開催や、大学教授を積極的に派遣し、互いの立場の違いの理解を促すプログラムなどを提案しました。これにより、親しみのある文化を活用した積極的な交流を通じて、三国間の和解と未来を築くという姿勢を示しました。

中国はこれらの提案に賛同しつつ、共通のSNSツールが存在しないことを課題として挙げました。市民レベルでの日常的なコミュニケーションツールを整備することが、さらなる文化交流と和解につながると述べました。韓国もこれらの提案に前向きな姿勢を示し、少子高齢化や外国人労働者のビザ問題など、状況は異なりつつも大枠では共通の課題を抱える東アジア全体が、共同体として協力して取り組むべきだと強調しました。

これらの議論を踏まえて、Plenary Sessionでは以下の三つの大きな枠組みでプレゼンテーションを行いました。

本フォーラムの最後のセッションが、東アジアの明るい未来に向けた複数の具体的な提案で締めくくられたことで、参加者は今後の展望に大きな期待を寄せることができました。

 

( 松島大剛 )

( ディベートセッションの様子 [Debate Round 1] )

3. ディベート報告

Debate Round 1:核兵器は世界の安定か、脅威か

第1ラウンドでは、「核兵器は世界の安定に貢献するか、紛争のリスクを高めるか」というテーマでディベートが行われました。

抑止力とリスクの双方について議論が行われ、肯定側は、核兵器は不安定化要因だと主張しました。核保有国は報復を気にせず行動し、ウクライナ侵攻のように通常戦争は防げないと述べました。また、ベトナム戦争や朝鮮戦争など代理戦争も起きており、偶発的な発射や誤認による使用リスクも存在すると指摘しました。その上、核拡散が使用のリスクを高め、核実験が他国や先住民との紛争を引き起こした歴史を挙げました。

一方、反対側は核兵器が世界の安定に貢献してきたと主張しました。第二次世界大戦以降、核が実際に使用されておらず、大国間戦争も起きていないことを歴史的証拠として提示しました。更に、インドとパキスタン間が核兵器を保有するようになって以降大規模戦争が起きていないことを例に、核抑止や相互確証破壊(MAD)が大国間戦争や通常戦争を防いでいると述べました。核兵器の使用には道徳的要素もあり、評判や政治的コストがあまりに大きすぎるため、核保有国が核兵器を使用しないと強調しました。この討論は、核兵器が国際社会の安定に貢献し得ることを示すと同時に、それに伴う大きなリスクを理解し、対策を講じる必要があることを改めて浮き彫りにしました。

( 橘高冷敦 )

( 激しい議論の後は笑顔でASEANスタイルの握手。 )

Debate Round 2:グローバリゼーションは機会か、リスクか

第二ラウンドでは、「グローバリゼーションはリスクよりも多くの機会を生み出す」という論題で討論しました。

肯定派は、グローバル化を経済・文化の相互依存の深化と定義し、主に経済的機会の創出を主張しました。貿易や海外直接投資は途上国の雇用を増やし、規模の経済は資源配分の効率性を高めると述べました。また、文化交流や国際対話はソフトパワーとして国家間の相互理解を深め、協力関係を強化する機会となると論じました。結論として、グローバル化がもたらす経済成長や国際協調といった多面的な利益は、潜在的リスクを上回ると結論づけました。

一方、否定派は、グローバル化がもたらすリスクを強調しました。経済面では、利益が先進国に偏ることで国家間・国内の格差が拡大し、複雑化したサプライチェーンは紛争やパンデミックに対して脆弱であると指摘しました。文化面では、西欧文化の流入が各地域の伝統文化の衰退や均質化を招くと警告しました。政治・環境面でも、資源競争の激化や環境破壊の加速といったリスクを挙げ、持続可能性が重視される現代において、グローバル化はリスクが大きすぎると主張しました。

【個人の学び】
 日中韓の学生でチームを組み準備を進める中で、それぞれの国の視点から意見を出し合い、主張を組み立てていく過程は非常に有意義な経験でした。この経験を通じて、複雑な問題を多角的に捉え、建設的に議論する重要性を学びました。今後の学習においても、この姿勢を大切にしていきたいと思います。

( 松本晃毅 )

( 初日レセプションにおける参加者交流の様子 )

Debate Round 3:教育評価の未来 ― 多様性と公平性の両立は可能か

第3ラウンドでは、「中等教育に多様な評価基準を取り入れるべきか」というテーマでディベートが行われました。

肯定側は、標準化された試験だけでは生徒の多様な才能や個性が見えにくいと指摘しました。多様な評価を導入することで、生徒の全人的な成長を促し、自己理解を深めることができると主張しました。また、学校や家庭、社会にとっても教育の健全な発展や人材育成の最適化につながると述べました。

一方、否定側は、多様な評価は資源格差や教師の主観によって不公平を生みやすいと警告しました。標準試験は簡潔かつ客観的で、努力次第で誰でも挑戦できる点が強みであると強調しました。さらに、受験勉強を通じて計画性や忍耐力、プレッシャーへの耐性といった重要な力が育まれるとも述べました。

このディベートを通して、教育制度には公平性と多様性の両立が不可欠であることを実感しました。特に、多様な評価の導入には魅力がある一方で、格差や主観性といった課題をどう克服するかが今後の大きなテーマになると感じました。

( 鷲谷望 )

4. 交流プログラム報告

( 文化交流会にて、中国団が披露した伝統舞踊 )

文化交流会:歌と踊りで一つになった夜

フォーラムでの白熱した議論の余韻が残る中、各国の学生が心を込めて準備した文化交流会が開催されました。

最初に、日本団が日中韓にちなんだ絵柄のカードを使ったユニークなカルタを用意しました。60名の参加者が7〜8人のグループに分かれ、景品めがけて熱戦を繰り広げました。中国や韓国の学生にとっては初体験だったそうですが、みんなが真剣な表情で、夢中になってカードを取り合う姿は、本当に印象的でした。カルタ大会で会場が熱気に包まれた後、今度は日本団の全員がステージに上がり、誰もが知る日本のアニメソングのカラオケ大会が始まりました。最初は遠慮がちだった韓国と中国の学生たちも、途中からはどんどん前に出てきて、会場全体が一つになって歌った瞬間は、まるで一つの大きな合唱団になったようであり、忘れられない時間になりました。

日本団が会場を温めた後、中国団の学生がステージに立ち、まず中国で流行しているというダンスをみんなで練習しました。テンポの速い踊りに苦戦しつつも、みんな見様見真似で楽しんだ後、息をのむような美しい伝統舞踊が披露されました。白と赤の衣装をまとった学生による優雅な踊りは、私たちを完全に魅了しました。続いて、ひょうたん型の笛「フルス」が奏でられ、その独特な音色の美しさに心奪われました。その後もいくつかの素晴らしい踊りが披露され、最後は中国団全員での心温まる合唱で締めくくられました。

最後に登場した韓国団の学生たちは、会場を完全に彼らのものにしました。男女の恋愛を歌ったデュエットソングから始まり、立て続けに有名なK-POPの曲を数曲パフォーマンスすると、会場のボルテージは最高潮に高まりました。国境の垣根を飛び越え、会場全体が一体となって踊り、歌い、盛り上がりました。興奮の渦が冷めやらない中、アンコールの大合唱が起こると、一人の韓国人学生がギターを手にステージへ上がりました。その優しい音色に導かれるように、全員が再び登場し、心に染み渡るようなバラードの合唱で、感動的なフィナーレを飾りました。

この文化交流会は、単に他国の文化を知るだけでなく、フォーラムの疲れを吹き飛ばすほど純粋に楽しむことができました。この時間が、私たち三国間の学生の距離をさらに近づけ、忘れられない思い出になったと確信しています。

( 松島大剛 )

( 古都・京都、清水寺付近での散策。 )

京都文化体験:過去と向き合い、未来を語る

JCKフォーラム4日目の立命館大学での講義を終えたのち、日本代表団アドバイザーの長川美里氏の提案により、日韓の代表メンバーとともに立命館大学国際平和博物館を訪問しました。さらに幸運なことに、長川氏の紹介で、立命館大学国際地域研究所客員協力研究員の野島大輔氏にも同行いただきました。この博物館は、1970年代に京都市の市民が戦争の遺物を持ち寄り、「歴史を忘れず、平和のために伝えたい」と自発的に開いた展覧会をきっかけに設立されたものです。この市民の動きが大きな機関を動かした事実は、若者による対話もまた将来の平和や地域和解に結びつきうることを示してくれ、深い感慨を覚えました。

京都の暑い坂道を上って博物館に着くと、まず特別企画展に参加しました。そこでは市民が寄贈した戦争遺物を観察し、解説を聞きながら実際に触れることができました。特に印象に残ったのは、1944年に日本で製造された陶製手榴弾です。一見すると可愛らしい丸い形をしていましたが、戦争末期に鉄が不足するなか、陶磁器職人がやむなく製造に従事させられた背景を持っていました。一番活用された沖縄戦では攻撃だけでなく、島民の集団自決にも使用されたとのことです。目の前にコロンと横たわる陶器の静けさと、それがかつて奪った人々の命の重みが結びつかず、戦争の異常さを際立たせていました。

常設展示は2年前にリニューアルされ、東アジアの近代史に焦点を当てつつも、特定の国民国家の視点に偏らず、世界的な人権運動の文脈の中で平和と歴史を語っていました。そこでは植民地支配を受けた原住民や、平和を訴え迫害された活動家など、歴史の中で「声を持たなかった人々」に光が当てられていました。あまり日本国内の他の博物館ではみられないような資料を目にするうちに、教科書では触れられない無数の「名もなき人々」の叫びや涙、戦いの積み重ねの上に、現在の私たちの社会があることを痛感しました。展示の最後に記された四國五郎の「戦争を起こす人間に対して、本気で怒れ」という言葉が胸に突き刺さりました。

訪問後は近くのカフェで抹茶スイーツを味わいながら、長川氏と野島氏を交えて東アジアの平和と未来について数時間語り合いました。博物館の展示の語りを手がかりに、東アジアの歴史や平和がいかに世界とつながっているか、そして国家の枠にとらわれず一市民として経験や活動を社会に還元しうる可能性について議論を深めました。今回の訪問と対話を通じて、私たちはみな、国籍やジェンダー、年齢といった多様なアイデンティティを有しますが、それ以前に一人の人間として平和に寄与できることが必ずあるという確信を得ました。その思いを胸に、未来へと歩む力をいただきました。

( 猪島章子 )

おわりに

第13回日中韓ユースフォーラムは、安全保障、経済、教育、文化といった多岐にわたるテーマについて、3か国の若者が真摯に議論を交わす貴重な機会となりました。時には各国の立場の違いから議論が白熱する場面もありましたが、対話を通じて互いの背景にある歴史や価値観を理解しようと努める中で、私たちは確かな相互理解と信頼関係を築くことができました。

特に、文化交流会や博物館訪問といったプログラムは、机上の議論だけでは得られない心の繋がりを生み出し、国という枠組みを超えた「東アジアの仲間」としての連帯感を育んでくれました。

本フォーラムで得られた学びと友情は、私たち一人ひとりにとってかけがえのない財産です。この経験を糧に、私たちはそれぞれの場所で、東アジア、そして世界の平和と発展に貢献していくことを誓います。

最後になりますが、本フォーラムを主催・運営してくださった国際連合協会の皆様、ならびに開催にあたり多大なるご尽力をいただいたすべての関係者の皆様に、参加者一同、心より御礼申し上げます。

( 日中韓ユースフォーラム日本団員一同 )

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