第49回 国際理解・国際協力のための全国中学生作文コンテスト 入賞作品紹介

「もしも私が国連職員なら」

外務大臣賞
福島大学附属中学校1年
佐久間 要丞さん

この夏、親戚との所用のためニューヨークを訪れた。到着した日に少し時間があったのでホテルから近かった国連本部へ行ってみた。加盟国の国旗に沿って入口に入ると、銃口がねじれて結んである銃の彫刻が出迎えてくれた。非暴力を訴えているそうだ。空港の出入国のような手荷物検査の後、一般展示のフロアに入ると様々な写真や資料のパネルがあったが、数多くの展示品の中でも、子供達の生活の様子のものばかりが気になった。中でも印象に残ったのは「Women, Water and Wells」と書かれたコーナーで、シエラレオネなどアフリカの国々での井戸を造る国連の活動、そしてその水に喜ぶ子供達の写真だ。苦労して井戸を掘る人達。そのやっと出た赤い土色の水をうれしそうに口にする子供達。私はその写真を見ながら、のどが渇いたと言って、通りで買ってもらった1本1ドル25セントの冷たいミネラルウォーターを飲んでいた。

もしも私が国連職員なら提案したいことが3つある。まず1つ目はきれいな水プロジェクトだ。やはり何といっても水は生命の源だ。私達の日常では考えられないが、発展途上国では下痢で命を落とす。原因は不衛生な水である場合が多い。もちろんそれ以前に水自体を確保できずに生きられない人達がたくさんいる。井戸の確保は国連の懸命な活動の実績もあり、これから先もその技術はさらに進歩していくだろう。そこで、その水を少しでも澄んだものに、きれいな状態にする方法を提案するプロジェクトだ。その国・土地にあるものを利用して水をろ過したり、殺菌したりする方法を現地の人々と共に研究・実践していくチームを作りたい。

2つ目は読み書きプロジェクトだ。字が読めない・書けないということがどれだけ不自由であるのか想像がつかない。写真の中に小さな小屋の学校でうれしそうに字を学んでいる男の子がいた。自分の名前が書けるよう、一文字でも多く読み書きが出来るよう、出来れば数字や簡単な計算もできるよう教えたい。もちろん国連がこれまで行ってきた教育支援活動の延長であるが、教育活動が可能な土地であれば家庭教師のように出かけて行って教えるチームを作りたい。普段ため息をつきながら勉強している自分がどんなに幸せか再認識させられた。学ぶ喜びを分かちあいたい。

そして3つ目は、実は私が一番提案したいこと、スポーツプロジェクトだ。私は野球が好きだ。上手ではないが、部活動でやったり、試合を見たり、好きな選手を応援する時が今一番楽しい。アメリカに来る度に大好きなメジャーリーグの試合を観戦する。両親に感謝だ。いつも感じるのはスポーツに言葉や国の壁はないということだ。その場でファン同士話も弾み、共にゲームを楽しめる。確かに写真パネルで見た、生きるだけで必死な子供達にとって、スポーツなどと言っている場合ではない。しかし、健康状態が良好で元気に動けるのなら、あの子供達にボールを投げたり、捕ったり、蹴ったりする楽しさを経験させてあげたい。人としてこの世に生まれてきたからには、全ての子供達がそんな「楽しむ」瞬間があっていいはずだ。野球でもサッカーでも何でもいい。簡単なキャッチボールやゲームをするスポーツクラブを作りたい。そして一緒に笑顔でボールを追いかけたい。

国連の目的の一つに「貧しい人々の生活条件を向上させ、飢えと病気と読み書きのできない状態を克服し、お互いの権利と自由の尊重を働きかけるように、共同で努力すること。」とある。今回の展示見学で少しだけ実感できた気がする。私は幸せに暮らせている。このように知るチャンスもたくさんある。これから大人になるまで、国際社会の一員であることを忘れずに成長していきたい。とりあえず目の前のすべきこと、毎日の勉強に運動に励むことが今の私のプロジェクトである。

「私にとっての国連ミレニアム開発目標」

文部科学大臣賞
郡山市立緑ヶ丘中学校2年
増子 光希さん

「お金持ちの家に生まれたら幸せなんだろうな。」そんな事を口にする私に、「世界には色々な人がいる。お金がなくて学校に行けない子供。朝から晩まで働く子供。家がなくて路上生活をし、物乞い、時には生きるために悪事を行う子供。世界には、大変な苦労をしている子供達がたくさんいるの。だから私達は幸せなのよ。」と姉は言う。

姉は国際ボランティア研修生として、タイ国へ行って、様々な事を実際に見たり勉強した経験があるので、姉の言葉には説得力がある。姉の話の中で特に驚いた事は、未だに世界の何処かで、戦争があり、その兵士として少年が使われている事、戦争が終わっても、アジアの国には多くの地雷が埋まっており、今でも犠牲者がいるという現実。この平和が当たり前だと思っていた私にとって、そんな事が同じ地球上で起こっている現実を実感する事ができなかった。

しかし、国連について学ぶうちに、自分の平凡な生活が、いかに幸せであるか理解できた。国連ミレニアム開発目標の中に、“普遍的な初等教育の達成”がある。世界には未だに初等教育さえ受ける事ができない人達がいる。特に、女子の教育率が低い事に大変驚いた。私が考える当たり前は、世界の当たり前ではなかった。そして、世界中の同世代の友人を助けたい気持ちがあふれた。

私は伯母の勧めで、私達の着なくなった洋服を海外の子供達に送ってもらう事にした。福島県いわき市にあるボランティア団体では船で海外の子供達に古着を送る活動をしている。私の古着を捨ててしまうのではなく、また誰かに着てもらえる事を想像すると、とても嬉しかった。しかし、この古着を簡単に送る事ができない事実を知り、私は憤りを感じた。物資を送るための輸送費が大変高額である為、送りたくても送ることができないのだ。どうして、国が違うだけで、地球上の資源を地球の皆で共有する事ができないのだろうか。捨てればゴミになってしまうものが、再度誰かに生かしてもらえる事は、かつて日本人が持っていた“もったいない”の精神に通じるものだと私は思う。特に現代は、リサイクル・リユースを推進しているのだから、日本政府や国連の使命として、古着、靴、本、使わないけれど捨てるにはもったいない文房具や日用品を集める活動を積極的に後押しするべきではないだろうか。その活動を県や市町村、学校単位で行うようになれば、多くの日本人が、世界の人々の役に立っているという実感を持つことができると思う。お金をかけなくても海外援助が気軽にできる事は、楽しく、長く活動できるきっかけになると思う。そして日本人の誇りである“もったいない精神”も受け継いでいけると考える。重要な事は、日本政府や国連が物資送費コストを全額負担する事だと私は思う。輸送費用の問題を国の問題として解決し、世界規模でのリサイクル・リユース作戦が展開すれば、必ず世界中の多くの人々が幸せになれると信じている。

特に“普遍的初等教育の達成”のために私が推進したい事は、小学校1年時に使用する算数セットを、教材使用が終了した時点で学校で回収し、世界の初等教育充実のために世界の子供達にプレゼントする事である。 私自身、あの箱をもらった時、小学校に通学し勉強できる事を楽しみにしていた。夢に見るほど心から嬉しかった思い出がある。お古ではあるが手にした子供達も、きっと私と同じ気持ちになってくれるはずだ。

私達みんなに、将来の夢を持つ権利があると思う。世界中の子供達が初等教育を受け、それぞれの夢に向かって頑張る事が出来るよう、世界中の人々で協力して応援していこう。

みんなが夢を持つ事は、世界の未来が明るく希望に満ち、世界中のみんなの幸せにつながっていくと私は確信している。

「もしも私が国連職員なら」~平和のとりでを築きたい~

社団法人日本ユネスコ協会連盟会長賞
尾道市立長江中学校3年
佐々木 大樹さん

世界の現状を知って悔しさのあまり涙を流したことがある。それは児童労働の実態を知るためのワークショップでのことだった。

日本人のチョコレートの年間消費量は世界第6位と多い。そのチョコレートの原料になるカカオ豆の一部は、発展途上国の子ども達による児童労働によって生産されているという事実に、僕は衝撃を受けた。そのワークショップで、実際にアフリカのカカオ農家の現状を知るために、僕は最も貧しい農家のグループ体験をした。食料を買うこともできず仕方なく、子どもを学校に通わせないで働かせる家族。そんなグループの一員として、僕は他の農家のグループを見にいくことになった。他の大農家では、息子を海外に留学させたり、食糧や衣服を沢山買っていた。そのグループの説明が終わった時、この理不尽さに、僕は悔し涙を流していた。

今まで何回かこの様なワークショップに参加してきたが、その度に、自分が受けて嫌な苦痛を他の人が受ける世界にしたくない、この世界の現実を変えることに協力したいと考えてきた。「自分に何ができ何をすべきなのだろう。」という問いを心の中でいつも自分にぶつけてきた。

二億人以上にものぼる児童労働者や少なくとも30万人以上いると言われている子ども兵士達。僕は彼らに比べれば、信じられないほど安全で、幸せで、文化的な生活を送っている。だからこそ、自分の経験を生かし、互いの文化を分かちあえる世界をつくりたいと思ってきた。

国連の専門機関の1つであるユネスコは、自らの憲章で「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」と記している。この言葉は僕に強い感動を与え、是非ユネスコで働きたいと思うきっかけになった。

国連組織に入るためには当然語学力が必要になる。自分の英語力を高めるため、僕は今年の夏、国際ワークキャンプに参加し、10日間英語だけで生活した。その中で6カ国から集まった青少年達が互いにそれぞれの文化を紹介し、分かちあう機会があった。踊りや歌や料理、各国の伝統芸能などをみんなで共有することによって、それぞれの文化がより輝いたように感じた。そして文化に優劣などないと思った。

僕は国籍や人種、民族に関係なく、世界中の人々の文化、思想、アイデンティティー等が守られるべきだと思っている。それらを守るために、世界中の情報や文章を読むことができると同時に、それぞれの国や民族の人が、自分達の文化と身体を保護できる「平和のとりで」という名の文化的施設をつくりたい。心の平和・身体の平和、この二つが守られる環境にあってこそ、人は安心して生活できると考えているからだ。この施設を世界中・発展途上国・先進国に関係なく建設し、お互いを理解して文化的な側面から平和を構築していきたい。もちろんこの施設では教育も行いたいと思う。義務教育のないところでは子ども達に教育を、また女性や失業者が困らないよう職業訓練も行えればいいと思う。

これらの目的をユネスコだけで達成するのは難しいと考えられるので、UNHCRやユニセフとも協力していけたらと考える。

この「平和のとりで」を建築できたとしても、全ての争いや貧困、そしてそれらに関連して起こる飢えはなくせないかもしれない。

しかし、人類はより良い社会を目指して今まで歩んできた。僕達の生活はこの努力と世界とのつながりの中で成り立っている。だからこそ僕達にはより良い社会、そして世界を築いていく責任がある。

いつかこの地球に生きるみんなが幸せを分かちあうことのできる世界を目指して。

「日本は国連で何をすべきか」

財団法人日本国際連合協会会長賞
愛知県岡崎市立甲山中学校3年
鈴木 崇造さん

2009年春、僕は板門店に立っていた。折しも北朝鮮の「人工衛星」と称する何かで日本中が大騒ぎになっている時だ。

僕の住む町は、車関連の会社や国立の研究所があることから、外国人が多い。同級生には、外国で教育を受けた経験のある子や、外国籍をもつ子がいる。僕も5歳までイギリスで育った。報道やドラマの世界からは遠く、この町の僕たち子供社会には、他の国の文化を認める穏やかな生活がある。授業で国連加盟は192カ国と知り、世界は案外狭く、時代は徐々に平和に向かっていると思っていた。

しかし、板門店で韓国のガイドさんから、「まだ朝鮮戦争は終わってはいない。その橋の向こうには、核兵器がある。」と聞かされ、今まさに眼前に広がる光景と、羽田空港のテレビに映っていた北朝鮮のニュースが交錯し、ぞっとした。世界には他にも、物資の援助やボランティア活動だけでは解決できない問題があるのだと、肌で感じた。このコンクリートの橋で仕切られた向こう側の同世代の子らと、自由に談笑できる日が、来るのだろうか。僕は初めての疎外感、絶望の中、遠くに霞む山をいつまでも見ていた。

夏、文化祭の合唱コンクール曲が「消えた八月」に決定した。僕は楽譜を見る度に衝撃を受ける。歌詞には原爆によって奪われた命の叫びがあり、旋律は、やり場のない憤り、悲しさを切々と訴えてくる。この曲は、いい加減な気持ちでは歌えない。これを選んで歌う僕たちの責任は重い。しかし突然、僕の中で、点が線となった。僕はすがるような気持ちで、国連について勉強を始めた。

日本は国連で何をすべきか。ズバリ、平和の輸出だと僕は思う。その一作戦として、国連主催の子供合唱コンクールを全世界に提案して欲しい。せっかちな強行政策では、暴力の連鎖を止められない。また国益の追求によりすれ違う議論は続き、法律で守られる未来には限界がある。しかし教育や文化が違っても、どの人にも父があり、母があり友がある。人類にはそういう共通の情が存在すると、僕は信じる。それをコンクールで歌うのだ。曲は世界共通にする必要はない。国の現状に合わせ、国連ミレニアム開発目標に掲げた八つの何れかをテーマにしても良い。ある国は女子教育を、ある国はエイズ防止を歌に託す。肝心なことは、母国語をその国の歴史や土地で培われたメロディーに乗せ、全人類共通の平和を子供が歌うことだ。歌には命があり、合唱には力がある。世界中の代表が一同に集まる音楽祭を持てば、お互いの歌の中からその国の理想や願いを理解し合える。滞在中、ホームステイをすれば、子供一人ひとりが最強の外交官となる。治安、経済力、子供の国際性、素直さを考えると、開催地は日本が望ましい。いや平和な日本がすべき役割だと思う。コンクールが長く続けば、幸福の歌は親から子へ伝わる。人の口から口へ伝わる新世代の歌が、国境を越えることもあるだろう。

そして日本は、核兵器廃絶をテーマに歌うべきだと思う。被爆者の方々は深く傷つきながらも人や国を憎むのではなく、全人類の平和を訴えている。この純粋で貴い精神こそ、国連の理想といえよう。さらにオバマ大統領のプラハ演説、ノーベル平和賞受賞者によるヒロシマ、ナガサキ宣言と絶好の好機だ。重光元外相の国連加盟演説に込められた、日本国連の決意と理念は、これからも人類の平和な未来を照らす光となると、確信している。

いよいよ文化祭に向け、歌の練習が始まる。日本の被爆者の方々と直接触れ合える最後の世代として、その思いを真摯に受けとめたい。さらにポリネシア、オークリッジの被爆者、カザフスタンの核実験場閉鎖運動等の学習も、クラスの全員で進めていきたい。

平和を知る僕たちの歌声が、いつかあのコンクリートの橋を越え、まだ見ぬ友人たちに届く日は、きっと来る。その日を夢見て。