第61回 国際理解・国際協力のための高校生の主張コンクール
- 第61回(平成26年度) 入賞者発表 -
入賞作品紹介
もしも私が国連事務総長なら、国連で何をすべきか
外務大臣賞
秋田県立秋田工業高等学校 2年 今野 息吹
「もったいない」、この言葉はケニア出身の環境保護活動家、ワンガリ・マータイさんが世界中へ広めた日本の言葉である。現在では、その言葉の精神が、国際的に広く知られ、共感を得ている。
世界には、私たちが捨てるようなゴミを拾って暮らしている子どもたちがいます。私が高校1年生のときに訪れたフィリピンでも、そのような子どもたちがいました。
食べ物を手に入れるため、生きるために、拾ったゴミを必死に売ろうとする。真夜中に、帰る家もなく路上に寝そべっている子どもさえもいた。きっと、食べることもなくじっとして居たに違いない。
私の見た、フィリピンの一部の子どもたちは、「食べる」ことが当たり前ではなかったのです。しかし、アフリカではもっと深刻な食糧不足で多くの人が苦しんでいると聞きます。私は、日本に住む自分の日常が、世界の普通ではないことに衝撃を受けました。そして、世界中の子どもが飢餓に苦しむことなく、普通に「生きる」ことができないかと考えるようになりました。
そこで、私が国連事務総長になったら、という視点から考えてみます。何よりも取り組もうと思うのは、食糧問題です。世界では急速に人口増加が進み、問題はますます深刻になっています。FAOの報告によると、2013年には、8億4千万人以上、およそ世界の8人に1人が十分な食糧がなく、飢えに苦しんでいると言われています。そして、1日に4万から5万の人々が、飢えで亡くなっており、そのうち7割が子どもたちであるというのが現状です。
では、世界に食べ物が不足しているのか。実際にはそうではありません。世界で生産される穀物の量は、世界の人が生きるために必要な量のおよそ2倍だと言われています。それは穀物が、人間が食べるだけではなく、家畜の飼料やバイオエネルギーの原料として使われるからです。その結果、先進国が世界の穀物の半分以上を消費しているのです。また、先進国では廃棄処分される食糧が多いことも問題です。つまり、飢餓は食糧不足だけによるものではなく、食糧の配分の不公平が飢餓という問題に大きな影響を与えているのです。このことから食糧問題は食糧支援だけではなく、「社会システムを変えなければ、根本的な解決につながらない」と私は考えます。
国連事務総長の大きな権限・役割として、「安全保障理事会に働きかえ、国際紛争の調停に乗り出す」ことが挙げられます。現在も世界は、シリア、イラク、ウクライナなど、大きな紛争を抱えています。紛争を引き起こす根本的な要因は、「経済格差」だと思います。前WFP事務局長のジョゼット・シーラン氏は、「飢えという悲劇が、世界の暴動、難民、死人を増加させている」と言っています。私が、国連事務総長ならば、根本的な問題である「経済格差」を是正することに挑戦します。
そこで優先させたい政策は、途上国の農業生産性の向上です。これには、先進国の技術援助が欠かせません。その場しのぎではなく、持続的な成長を達成し、経済的に自立できる投資・援助が、必要です。そして、途上国がモノカルチャー経済から脱却し、高度な農業化と工業化を進めることが重要となります。
食糧の分配という面から考えると、世界の食糧廃棄物の削減が求められます。日本では、食品の半分は世界から輸入しています。それにもかかわらず、年間におよそ900万人分の食糧が廃棄処分されています。食糧の大量廃棄は日本だけの話ではありませんが、食糧の偏在が、飢餓という問題を悪化させていることに間違いないのです。このことから、飢餓の根絶、食糧の備蓄・分配ができる国際システムを作る上では、食糧・農業問題に取り組む「FAO」、食糧援助機関「WFP」という2つの国連機関の働きが重要です。
食糧問題は、食糧という1つの面から解決できるわけではなく、1国によって解決できるわけでもありません。複雑に絡み合う問題を大局的にとらえ、飢餓の根絶に向けて、国際社会の方向性を示すことが、国連事務総長に求められます。私が国連事務総長ならば、平和で持続可能な世界の実現を目指し、目の前にある飢餓と、その根底にある経済格差の問題に取り組むことを約束します。
女性が輝く世界の実現に向けて、日本と国連が協力すべきこと
― 女性が輝くために今すべきこと ―
法務大臣賞
大阪府 聖母被昇天学院 高等学校 2年 高柳 薫杏
「一人の子ども、一人の教師、一冊本、そして一本のペン。これで世界を変えられます。」マララ・ユスフザイさんの昨年の国連での演説は、心の奥深くにまで届くものでした。同い年である彼女が、新たな敵を作る可能性を恐れず、堂々と話す姿に感動したからです。命をかけて訴えた、女子教育の大切さを、私は女性の1人として受けとめるべきだと思いました。
昨年の夏、私はフィリピンの姉妹校を訪れました。この学校は、綺麗に整備された富裕層が暮らす場所にあります。しかし、隣り合わせで水溜りが多い道路に、トタン板1枚で仕切られた家が並ぶ地域も存在しています。女子教育に力をいれているこの学校は、支援の一つとして、校内の一部をその貧しい地域で生活する女性に働く場として提供しています。その女性たちはパンを焼き、制服を縫製します。そして、そこで稼いだお金で子どもたちを学校に通わせるのです。これは、驚くべき進んだ考え方であると気が付きました。自分たちは弱者なのだから、そうでない者から施しを受けることは当たり前。与えられたものを当然のように受け取って消費する。それだけでは、貧しい生活から抜け出すことはできません。しかし、労働という努力や技術を取得することで社会への参加が可能となります。さらに、労働に必要な知識を得ることは施しを受けることなく生活をすることにもつながります。また、その姿は子どもたちにとって見本となり、働く親への感謝の気持ちも育ち、次の世代へと続いていくのです。
これらのことから、女性が輝く世界の実現のためには、それぞれの立場、状況が必要としている教育を普及させることが、最も重要だと私は確信しました。子どもたちには本やペンを用いて読み書きを学ぶこと、大人には生きていくために必要な保健や衛生について、また、生活を支える仕事を覚えることなど、必要とされることは多くあります。これらを広く普及させるには、多くの人員が必要です。その人員を集め、統括するためには、国連の存在が不可欠です。日本では、安倍首相が国連総会で金銭的な面で女性支援に協力をすると表明しました。しかし、人的な面も見逃せません。日本から一人でも多くの女性が国連の活動に参加することが必要です。なぜなら、日本は金銭的な協力では、世界の中でも上位であるのに、国連で活躍する人員が少ないからです。そのため、私たち女子生徒が国連の仕事や活動の内容をより身近に感じられる機会はとても重要です。特に、女性の自立と社会貢献を目標とする国連機関であるUN Womanに関心が集まることが望ましいです。来年、東京の文京区に設立されるUN Woman日本事務所に注目が集まることに大いに期待しています。世界の第一線で働く女性の目線で語られる言葉から、日本の女性だからできることをどんどん見つけ出したいと思います。
また、国内での女性の地位の向上も目指して行かなければなりません。私は、あらゆる場面で男性がトップに立つことが多いことについて、特に疑問は抱いてきませんでした。誰から教えられたわけでもありません。むしろ男女平等という教育を受けています。しかし、この状況に問題意識を持ち、改善しなければ、日本女性が輝くことはできないと思います。
例えば、女性が子を産み育てながらも重用ポストを担えるよう、職場の現状を男性と共に考え直していくこと。同時に、私たち女性も、国や社会を動かすという意識をより強く持つこと。意識改革が進めば、女性が国連職員を目指すことにもつながっていくはずです。多くの女性が医師や研究者、経済や教育のスペシャリストとなり、世界の貧困、教育問題、国家間紛争の解消のための対話力を身に付けることで、各機関での活躍の場が増える期待も高まるはずです。
私が今、安全に高度な教育を受けられることは、当たり前でないと分かりました。感謝の気持ちを持って、進んで学ぼうと思います。私が学ぶことで、一人でも多くの女性が輝く世界へ繋がると信じて、日々の学びを大切にしていきたいです。何より、高校生である私自身が毎日輝いていられるように、いろいろなことに挑戦し続けていくことを目標とします。そしていつか、私も女性が輝く世界を作り上げる人の一人となり、活動できることを夢見ています。
もしも私が国連事務総長なら、国連で何をすべきか
文部科学大臣賞
東京都立八王子東高等学校 2年 菊池 陽南子
2015年までに「世界中のすべての子どもが男女の区別なく、初等教育の全課程を修了できるようにする。」これは、国連が掲げているミレニアム開発目標8つの中の1つです。他に、「極度の貧困と飢餓の撲滅」「男女平等の推進」「乳幼児死亡率の削減」「妊産婦の健康改善」「HIV/エイズ、マラリアなどの疾病の蔓延防止」「環境の持続可能性の確保」「開発のための促進」を来年までの目標にしています。もしも、私が国連事務総長だったら、これらの中でも特に「普遍的初等教育の達成」に力を入れるつもりです。なぜなら、教育がなされていれば他の目標も達成できるものばかりだと考えるからです。実際に初等教育を受けている国々では、その他の項目についてあまり深刻な問題はありません。
今年の5月「国会議員のための世界一大きな授業」というイベントに参加しました。私は政治家の皆さんに、2年前のインド旅行で見た子どもたちの現実をもとに、初等教育の重要さについて話しました。高校生の仲間と「日本政府の教育援助額について、初等教育費が少ない」と訴えました。ユネスコによると、2014年、5,700万人の子供たちが小学校に通えていません。そして、2億5,000万人の子供たちが小学4年生までに読み書きを習得できない状態です。その理由は、貧困、教育への理解不足、家事や賃金労働を強いられて、学校に通えないことが挙げられています。また、登下校が安全でなく遠距離なこと、学校設備や教員が不足していることも多く、教育環境も整っていません。仲間と共にワークショップを進め、議員の方々と直接意見を交わす中で、この深刻な状況を改善しなければ、という思いが強くなりました。
さらに、注目すべきデータがあります。「基礎的な読解力があれば、1億7,100万人が貧困から脱却できること」「読み書きのできる母親の子供は、5歳以上まで生き延びる確率が50%上昇すること」「学校教育を1年多く受けるごとに若者が紛争に関わる可能性は20%減少すること」です。教育を受けると、知識が増え、生きていく知恵も生まれます。例えば、目標の1つである「環境の持続可能性の確保」については、焼き畑農業の繰り返しで土の再生ができなくなることを知り、環境保護ができるようになるのです。そうです、教育よりその他のミレニアム開発目標も達成できるはずです。
現在の国連事務総長である潘基文氏は、「世界教育推進活動」を提唱していて、私も同じ気持ちです。ただ、残念なことに、何気なく暮らしている一般の人々は、初等教育の必要性を深く考えずに他人事になっています。個人的に情報収集しなければ見過ごしてしまうのが現実です。では、どのようにすれば世界の現状を知ってもらえ、問題意識を高められるのでしょうか。私が国連事務総長ならば、まず、世界の人々に周知させるための専門事業部を立ち上げます。そして、その立場を最大限に利用して、メディアに訴えかけたり、SNSを使って高校生の間でも情報を普及させたりします。
実際、私はSNSを通して、ナイジェリアでたくさんの女の子が奴隷売買されたことや、ALSという病気があることを知りました。また、さらに浸透させるために世界規模で「グローバルウィーク」を設けます。カレンダーに記載し、リポートやライブ、参加型のワークショップを行って国々を巻き込みます。これを実現させるために、オリンピックが世界中に中継されることと同様に、メディアにも専門事業部をつくるよう指示を出します。世界中に情報を流して協力を呼び掛けます。同じ話題でつながる。結果、意識が高まり「貢献したい。」と、行動を起こす人々や企業が増えていくはずです。
このように、世界の人々に周知させるシステムをつくり、協力することが普通になれば、教育は各国に普及するはずです。
私は、「初等教育の推進」を常に念頭に置いて国際社会で活躍していきたいです。世界の人口約72億人、38億年の中の奇跡の出会いを、共に分かち合い、未来につなげていくために。
もし私が国連事務総長なら、国連で何をすべきか。
― 歴史を忘れた民族に未来はないか?―
公益財団法人日本国際連合協会会長賞
宮城県仙台白百合学園高等学校 3年 吉川 優姫
「歴史を忘れた民族に未来はない。」昨年のサッカーの日韓戦で、韓国側のサポーター席に掲げられた横断幕の言葉です。その脇には、伊藤博文を暗殺した韓国独立運動家の安重根、そして、文禄・慶長の役で、水軍を率いて豊臣秀吉を撃退した李舜臣の、巨大な肖像画がありました。なぜ、スポーツの場にまで、このような問題を持ち出すのでしょうか。
私の母は、韓国人です。日本で生まれ育ち、日本国籍の私は、これまで、韓国人の血を引いていることを、ほとんど意識したことがありませんでした。しかし、日本人を挑発するような言葉が私を変えたのです。自分の中に流れる日本と韓国、両方の血を意識した時から、私のルーツ探しが始まりました。
母に聞いたり、韓国・済州島に住む祖父に電話をしたりして分かったのは、次のようなことでした。私の曽祖父は、1912年、済州島に生まれました。日本による韓国併合から2年後の事です。日本で勉強するために自らの意志で日本に渡った曽祖父は、日本で結婚、韓国に帰国して祖父が生まれます。戦後、祖父も日本で教育を受けたいという思いから日本に渡り、そこで私の母が生まれ、母は日本人の父と結婚、私という命につながるのです。今は、済州島で暮らしている祖父に、日本での生活に不安がなかったか、を聞いた時の答えが印象に残っています。
「あの頃、韓国人は日本人の良さを素直に認めていたよ。辛いこともあったけど、親切にしてくれた日本人も多かった。戦後、貧しかったけど、一人の人間同士、助け合って生きていたんだ。」意外だった祖父の言葉で、私は、ある人物を思い出しました。旅順の刑務所で安重根の看守を務めた千葉十七という人物です。千葉は、最初は、伊藤博文の暗殺者として、安に憎しみを抱きますが、安と接していくうちに、その高潔な人格に惹かれ、毅然とした精神や高邁な平和への理念に感銘を受けるようになります。安の処刑後、千葉は、故郷の栗駒に帰り、遺墨を仏壇に供え朝晩手を合わせ続けたといいます。国と国とが憎しみ合っていた時代、一人の人間同士として向き合った、安と千葉。この二人に、祖父が言っていた「一人の人間同士として助けあって生きていた」という言葉が重なりました。
先日、7年前に中国で行われた日中の女子サッカーの試合のことを知って驚きました。試合後、反日一色の中国サポーターに向けて、なでしこジャパンの選手たちは「ARIGATO謝謝CHINA」という横断幕を掲げたのです。翌日の中国の新聞は、「日本の選手は、不快な感情を乗り越えた」と論評し、「試合には勝ったが、度量の点で日本に負けた」という声がネットにあふれたと言います。今、韓国や中国は日本の歴史認識を揺さぶり続けています。これに対して同じ土俵で反論すれば、紛糾の度は増すばかりです。今、必要なのは、感情を乗り越え、国境を越えるような「包容力」を、自ら示すことではないでしょうか。
済州島にまで辿りついた私のルーツ探し。その道のりで気付いたのが寛容で柔らかな「包容力」のもつ重さでした。
私には国連などの国際機関で働きたいという夢があります。先日、韓国人である国連事務総長パン・ギムン氏の演説をうなずきながら聞き入っているうちに、私は、ふと自分が事務総長として国連の総会の会場で、演説をしている錯覚にとらわれ、次のように世界の人々に語りかけていました。
「“歴史を忘れた民族に未来はないか?”その答えは、私たち、一人一人の姿勢にかかっています。不幸な過去を乗り越えるには、歴史を直視したうえで、心の中に、“寛容で柔らかな包容力”を築く事です。国連のユネスコ憲章にもあるように、“戦争は人の心の中で生まれるもの”。だからこそ、私たちが心の持ち方を変えなければなりません。あなたが自ら包容力を示せば、相手も変わります。その小さな変化が輪になって広がり、やがては民族の違いや国境をこえた大きな連帯をもたらすのです。心の中に平和のとりでを築きましょう。そして、輝く未来を私たち自身の手で、引き寄せるのです。私は事務総長として、このことを世界各地で訴え続けていきます。」